【書名】銅版画のマチエール
【副題】
【著者】駒井哲郎
【出版社】美術出版社
【出版年】1992年
本書は大きく二章に分かれている。第一章「銅版画のマチエール」(①銅版画のマチエールとは ②さまざまな技法) 第二章「版画についての小文集」(①銅版画の起源とマスター E.S. ②ペーテル・ブリューゲルの銅版画 ③ジャック・カロ 黒と白のドラマ ④パリの明暗を刻むシャルル・メリヨン ⑤ロドルフ・ブレスダン 神秘な線のアラベスク ⑥わが内なるオディロン・ルドン ⑦至純の芸術家・長谷川潔)
「あとがき」より抜粋。「パリで実際にいろいろな人に会ってみると、そんなにたくさんの人ではないけれど、ぼくの印象としては本当の仕事をしている人は、自己に沈潜して、ゆっくり、静かに仕事をしているように見えた。そういう人たちの仕事にはじつに興味がある。はなばなしく売り出している画家、版画家もいないではないが、あまり惹かれなかった。パリにはまだまだ本物がひそんでいるように思えるのだった。」
この本が最初に出版されたのは、著者の死の直後であった。病気(がん)の進行とこの本の執筆は、同じように数年かけて進み、「あとがき」を遺書のつもりで書いたのではないか、と駒井美子夫人が書いている。駒井哲郎にとって、版画作品とは別の意味での渾身の作であると思う。
「現代における版画表現とは」と迷い悩む時、やはり駒井哲郎の存在は羅針盤であると思う。そして、その道は長谷川潔やメリヨン、ブレスダン、ルドンが歩いた道でもあるはずだ。小さくても小宇宙を内包した彼らの作品には、時代を超えた精神性や神秘が宿っている。