【書名】珈琲とエクレアと詩人
【副題】
【著者】橋口幸子
【出版社】港の人
【出版年】2011年
「詩人北村太郎は港の人が敬愛する詩人のひとり。その北村太郎と鎌倉の同じ家に暮らしたこともある不思議な縁で、著者は親しく交わる。日々の飾らない優しい詩人の姿や暮らしぶりを淡く、ぬくもりのある筆致で描いた好エッセイ集。画家山本直彰によるエッセイ「北村太郎の白」を収録」
北村太郎は、1947年から1948年まで同人誌として刊行された詩誌「荒地」に参加した詩人として知られる。中心メンバーは田村隆一、鮎川信夫。後に、伊那谷の仙人として有名になった加藤祥造も参加していた。
北村太郎の名を知ったのは、ねじめ正一の「荒地の恋」という小説であった。北村太郎、田村隆一、その妻・明子の3人の少々複雑な関係を描いたものだが、何となく憎めない感じの人だなと思った。
著者橋口幸子を通して描かれる北村太郎は、軽く、淡く描かれているが、詩人の孤独な魂を垣間見たような気持ちにさせられる。
この本をここに載せようと思ったのは、日本画家山本直彰によるエッセイが収録されていたからだ。 「そうか、言葉とは光なのだ。そして彼の白は、反射を拒みながらあらゆるものを内包していった。 詩は言葉で表せないものへ、絵画は眼に見えないものへと、おおきな矛盾をかかえながら表現する行為だ。北村太郎の詩を知るとしみじみ思う、犠牲を伴わない美なぞあり得ないと。彼のやさしさは無窮の寂しさへとつづいていく。」
「
「天気図」 北村太郎 作
きのうは
太平洋沿岸を急速にこすっていった低気圧のせいで
午後一時半
ヨコハマを出ていったときは雪
スカ線でながめた鶴見操車場は晴れ
午後三時の飯田橋はみぞれ
五時の白山上は曇りで風つよし
十一時半のヨコハマ・ザキは人影なく
水銀灯
氷の疑問符のごとし
午前一時帰宅
さっき白いネギを一本
薄皮を剥いで丁寧に洗った
そのあまりの白さに
だれもいないうしろを振り返って
アアとことばを発した
」
(以下、続く ・ ・ )