「リトグラフィ(ルネ・ロッシュ)」

【書名】リトグラフィ

【副題】石版画

【著者】ルネ・ロッシュ

【出版社】美術出版社

【出版年】1974年

「【オリジナル・リトグラフィと複製】数年前から版画芸術の専門家たちは、木版画、ビュラン、エッチング、リトグラフィを問題にして、オリジナル版画を正確に完全に定義つけようとしている。1960年ウイーンで開催された第3回国際美術家会議、1964年のフランス版画家委員会、アメリカのプリント・カウンシルと、1969年のオスタンドで開かれたリトグラフィの国際ギルドは美術愛好家たちを啓発するためのテキストを発行した。一般に漠然と版画とよばれているものは3つの全く異なったカテゴリー、即ち、オリジナル・リトグラフィ、芸術家のデッサンをもとにして手で作られた複製リトグラフィ、写真製版による複製に分けるべきである。オリジナル・リトグラフィは、芸術家自身によって完全に版画作品として制作し、手動式プレスで刷るという2つの本質的な基準に適っていなければならぬ。つまり、芸術家のデッサンをもとに職人が制作した版画は本物の作品ではなく、オリジナル・テクニックによる手の複製とみなされる。しかしながらある種の現代芸術家はこの複製にサインし、番号を入れている。最後に複製でありながらオリジナル版画とよばれているものがある。これは実際に写真製版印刷の方法により作られたものであり、たまには手で修正したり、作業したものもある。手動式プレスによる印刷は、本物のリトグラフィであることを保証する。芸術家が1枚1枚印刷の質をコントロールし、石にインクを塗る時に黒や色の密度を変えることができるからである。これらの条件を満たしても、刷ったものはそれぞれいくらか違う。機械による印刷は、インクの盛りは自動的であり、紙差しも機械が行ない、人間は関与しない。それ故、美術愛好家とコレクターは、リトグラフィを入手する時には、充分調査して著名な芸術家のサインが入っている作品でも往々複製にすぎない場合が多いから、それらに惑わされないよう充分注意していただきたい。」

この文章が書かれたのは1970年代のことで、今から40年以上前のことである。現代においては、印刷技術の進歩やパソコン、プリンターなどの一般家庭への普及により、事はさらに複雑になっている。1990年代の「ヒロ・ヤマガタ」や「ラッセン」などの商業<版画>ブームや、「平山郁夫」などの主に日本画作品の複製<版画>ブームなどもあった。本物の版画とは何なのか?文化を築き上げていくことよりも、金儲けを優先する人はいつの世にもかならずいる。まず、大事なのは作家自身がブレない事だと思う。「ヒロ・ヤマガタ」の<版画>を高いローンで買った人は、作品を大事に飾っているだろうか。クローゼットの中に仕舞い込んではいませんか。今でも、版画はお好きですか?