「川端康成と東山魁夷」

【書名】川端康成と東山魁夷

【副題】響きあう美の世界

【著者】「川端康成と東山魁夷 響きあう美の世界」 制作委員会

【出版社】求龍堂

【出版年】2006年

 正月よりも、年末の暮れていく感じが好きである。差し迫った何かに向かって、少しの後悔と達成感、まだ見ぬ期待を織り交ぜた空気感のようなものが、夜の静けさの中に漂っている。東山魁夷の「京洛四季」の一枚、「年暮る」は、大晦日の京都の暮れていく風景を描いた傑作である。民家の瓦屋根に薄っすらと積った雪景色を題材にしているが、描かれているのは空気感のようなものだ。 この「京洛四季」のシリーズが川端康成に強く勧められて制作したものであることは、この本を読んで知った。

「美しい日本の私」。川端康成が行ったノーベル文学賞受賞記念講演である。道元の句、「春は花夏ほととぎす秋は月 冬雪さえて冷しかりけり」から始まる、日本人の文化や芸術論、自身の美的感覚について端的に述べた名演である。

この本は、東山魁夷と川端康成の往復書簡、東山魁夷の作品、川端康成の収集した美術品の紹介などで構成されている。とくに東山魁夷が、川端康成に大きな影響を受けている様が見て取れる。

私には未だ、川端康成の「美しい日本の私」について論じることはできない。2013年、大江健三郎は、川端康成の講演を受けてノーベル文学賞受賞記念講演で「あいまいな日本の私」という題を選んだ。中世の道元や明恵の時代から平成の今に至るまでに人類が経験した、世界戦争や核兵器の脅威を無視して日本的美は不変であると説き、また、海外の聴衆を前にして神秘的なあいまいさに逃げたとして、川端康成を否定したわけである。

川端康成が愛し、東山魁夷が描いた美しい京都は、今、この日本に存在するだろうか。2015年もあと数日で暮れようとしている。